顧客接点を顧客体験へ デジタル時代に”選ばれる”マーケティング
オイシックス・ラ・大地(株)
Chief Omni-Channel Officer
奥谷 孝司

1997年良品計画入社。店舗勤務や取引先商社への出向(ドイツ勤務)、World MUJI企画、企画デザイン室などを経て、2005年衣料雑貨のカテゴリーマネージャーとして「足なり直角靴下」を開発して定番ヒット商品に育てる。2010年WEB事業部長に就き、「MUJI passport」をプロデュース。2015年10月にオイシックス・ラ・大地に入社し、専門役員/COCO(チーフ・オムニ・チャネル・オフィサー)に就く。2017年にEngagement Commerce Labを設立。2018年に顧客時間共同CEOに就く。2020年からLazuli株式会社顧問。 2010年3月早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。2021年3月一橋大学大学院経営管理研究科博士後期課程単位取得満期退学。 著書に『マーケティングの新しい基本顧客とつながる時代の4P ✕ エンゲージメント』(共著、日経BP社)『世界最先端のマーケティング顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』(共著、日経BP社)がある。 日本マーケティング学会理事。
<講演者の横顔:2026年1月1日号>
顧客接点を顧客体験へ
デジタル時代に”選ばれる”マーケティング
コンファレンスでは「ラベル」をキーに、国内外の専門家が市場・ブランド・技術の視点から課題と可能性を探る。本紙では、登壇者の人物像と講演の視点を「講演者の横顔」として連載する。第1回は、オイシックス・ラ・大地 Chief Omni-Channel Officer の奥谷孝司氏。事業会社の現場を起点に、顧客体験設計を軸とした取り組みを実践してきた立場から、その考え方と問題意識に迫る。
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奥谷氏は、無印良品で「足なり直角靴下」を大ヒットさせるなど、〝普通〞の中に価値を見出す視点と、生活者起点の商品づくりを実践してきた。また会員アプリ「MUJI passport」では、顧客IDを活用し購買行動を可視化。関係性を深めながら、長期的な利用につなげるデジタル施策を推進した。その後、店舗を持たない食品ECのオイシックス・ラ・大地において〝売って終わり〞ではなく、継続的なつながりを前提とした小売モデルを追求。デジタルと宅配という環境で、顧客との関係設計に取り組んでいる。
2018年には、これまでの現場経験とデジタル施策を体系化し、企業の顧客体験を支援するため、㈱顧客時間を共同CEOとして設立。商品中心でもデジタル先行でもない「顧客起点」の視座を企業へ提示してきた。一方で、企業を支援・助言する立場を続ける中、「もう一度プレーヤーとして市場に立ち、自ら実践する必要がある」との思いから、24年に㈱Super Normalを設立。〝優れた普通〞という概念を説くだけではなく、実際の市場で試す側へと、再度軸足を移した。クラウドファンディングも活用した同社の取り組みは、その思想を自らの手で検証する場となっている。「日本には、〝いいもの=売りたいもの〞がたくさんある。いわゆるこの〝優れた普通〞を売ることを実現したい」と奥谷氏は語る。
同社の活動には、流域保全を掲げる環境認証「SALMON SAFE」と連動した取り組みがある。一例が、田んぼから川、海へとつながる生態系に配慮して醸造された日本酒「環めぐる」。同日本酒は100本単位の小ロットで展開され、大量生産では埋もれがちな〝優れた普通〞を丁寧に伝える試みとなっている。また、同日本酒のラベルでは、認証ロゴを義務表示ではなく〝誇りとして示す印〞へとデザインする取り組みも行う。日本酒ラベルを単なる装飾ではなく、ブランドの姿勢を示す媒体として捉える同氏の思想が、色濃く反映されている。
「ラベルを見て関心を喚起し、購買という行動に変える。ラベルはまさにその最前線に立つ」
「紙という媒体は、会話を生む価値を持つ。それを仕掛けるためにデジタルというツールがある」
大量生産・大量消費ではなく選ばれる理由が問われる時代において、紙とデジタルを組み合わせることでブランドの〝態度〞を伝え、共感を得ることができると、奥谷氏は述べる。
無印良品で〝普通〞を価値に変え、オイシックスで〝つながり〞を築き、顧客時間で〝顧客起点〞を体系化してきた経験。では、選ばれるブランド・企業になるには、顧客体験をどう設計するべきか。ラベルフォーラムジャパン2026では、「顧客接点を顧客体験に繋げるマーケティング戦略」をテーマに講演を行う。
ラベルという接点の価値を問い直す視点は、ラベル市場に多くのヒントを与えてくれるだろう。その一貫した軸こそが、奥谷氏のキャリアを貫く本質である。